まるで図ったように、七年ぶり。NINの単独来日公演。
彼らが初めて日本の地を踏んだのは、2000年。
その次が2007年。
そして今回、2014年。
幸運にも僕はすべて見てこれたんだけど(フェスは一回も見てないですけどね)、初めて見てから14年…。感慨深いです。
整理番号はわりと前の方だったんだけど(というかコーストはあまり整理番号関係ないですよね、行こうと思えば、かなり前まで突っ込んでいける)、体力的なことも考えて、ちょっと後ろにさがってみてました。他の理由としては、NINと自分の間にちょっと距離が空いていたから、ということもあるでしょう。新しいアルバムだって、数えるほどしか聴いていなかったし、昔は彼トレントが(プロデュースなり曲提供なりで)関わったサントラはほとんどすべてチェック、購入していたのに、近年の『鉄男 THE BULLET MAN』, 『ソーシャル・ネットワーク』や『ドラゴン・タトゥーの女』は、まったくといって言いほど、チェックしていなかったんです。今回のライヴメンバーもうろ覚え、たしかロビン・フィンクいたよなあ、あれ、アレッサンドロ・コルティニは?どうだっけ?みたいな始末。そんなこんなで、前回はフロア中ほどでシンガロングだった僕は、今回一歩退いて、おとなしく見るのが相応しいような、そんな気分だったんです。
一応今回の日本ツアーのメンバーは―
Trent Reznor, Robin Finck, Alessandro Cortini, Ilan Rubin
―この4名(合ってるはず)。フジ・ロック2013の時は、ベーシストとしてPino Palladinoがいたようですが、今回は外れている様子。
そして単独でも活動しているキーボーディスト、アレッサンドロ・コルティニ(以下アレさん)は今回の来日で前座も務めています。
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きっちり19時くらいに客電が消えて、バックの青いライトが強くなり始めた。
現れたアレさんはステージ中央でしゃがんで、機材をいじるわけですが、これがAmbient/Drone調のトラックなもんで、なかなか、ねえ、アレですよねえ。NIN好きな人はこういう曲も受け入れられるだろうけれど、でもNINを待ってる状態で、この起伏に乏しい、リズムのない、電子音の波はいささか厳しかったかもしれません。多少アグレッシヴな鳴りがあったので(でもアレで手拍子するのは違うと思いますなあ)、音楽的に引きつける部分はありましたが、完全にAmbient/Droneだったら、よくも悪くも異世界に突入していたでしょう。このアレさんの前座は2トラックで終了。ノイジーな波を放射したまま、彼はその場を去っていきました。
このアレさんのプレイから本編のNINにつながることを予想していた人もいますが、まさにその通り、ここから間髪入れずに、フラッとNINメンバーがステージに現れて、トレントはフロア中央でキーボードをプレイ! さりげなさすぎる登場だよ! この登場の部分は前回の方が断然カッコよかったと思います! トレントは前回ひげのモッサリ姿だったんだけど、今回はちゃんと剃ってる(笑)。衣装もなんか帷子みたいな(?なんていうのアレ?)、股の部分にペロンと前掛けみたいのがついてるスタイル(スマパンのビリーみたいな。あそこまでガッチリじゃないけど)で、ちょっぴり気が使われている感じがしました。
で、1曲目がまさかの(これを予想できた人がいるだろうか)「me I'm not」! しかもこの時点で楽器を演奏しているメンバーが一人もいない(笑)。4人ステージにいるのに、みんなシンセかなんかよく分からないけれど、機材を操作しているという、なんとも面白い光景。でも前回のコーストを振り返ってみたら、「me I'm not」も演奏はしているんだな。トレントはこの曲好きなんだろか。
序盤からフルスロットルというよりは、こんな曲から始めるあたり、徐々に盛り上がりを作っていくパターン?とか思っていたら! 次が「Survivalism」だった! 決して唄いやすいという曲ではないんだけれど、このアグレッシヴなテンション、畳み掛けるようなリズムに会場は一気にヒートアップ。トレントのヘッドバンギング気味の歌唱と、強烈なライトアップ(ホント強烈)も手伝って、いよいよライヴ始まった感が半端なく高まった瞬間。
ホント序盤からすげー飛ばしまくりでニヤニヤしちゃったんだけど(トレントを生で見ているせいもモチロンあります)、次が「Terrible Lie」! このナタでぶった切るみたいなカタルシス満点の「hey God」のフレーズ(会場は大合唱です)。トレントのどこかセクシャルな歌唱が醸す肉体性。実に絶妙なアクセントになっている電子音のフレーズ。なんというパーフェクト感! すげーカッコいいのと気持ち良いのとで、3曲目でいきなりコレかよ!あとどうすんだよ!ってちょっと心配しちゃったけど、余計なお世話でした。
そうそう、このあとの(これがまた畳み掛けるような「えええ、飛ばすなあ!」って笑っちゃったんだけど)「March Of The Pigs」, 「Piggy」を見てて思ったんだけど、ドラムのIlan Rubinが、今回のライヴの個人的肝。Josh Freeseの引き締まったタイトなドラムも好きだったけど、このIlan Rubinのドラムが実にパワフルで、ライヴ映えする。プレイ自体、モーションが大きくて、見てるこっちも気持ちが高ぶってくるような、そんなスタイル。一打一打が耳をバシバシと打つんですよ。「Piggy」の後半のドラムとか、しびれましたね。あ、ちなみに今回はトレントは「Piggy」でステージ降りてきませんでした。またお客に歌わせるかと密かに期待したんだけど…。
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この辺りからが、ちょっとクールダウンの部になるんですかね。トライバルに進化した「Sanctified」や、新作からの「Disappointed」(スピード感あってカッコよかった), 「Came Back Haunted」, 「Find My Way」を立て続けに披露。
最近のライヴでNINがスクリーン使っているのか知らないんですけど、今回の来日では(それを言えば前回も)使用せず。その分ライティングに力が入っていたような印象です(もちろんアメリカのシャッターみたいなのとはまた違いますけど)。前回のコーストではそんなにライティングが印象に残っていないので、これはやはり今回目立っていた演出なんだと思います。ライトのパターンや色、動き、光の出し方、トラックごとにさまざまに使い分けられていました。「Came Back Haunted」のときは、ステージ後ろの壁に埋め込まれたライト(複数)が、水平方向に回転しながら会場をグルグルと照らして回るような演出だったんですが、どう見てても一定のタイミングでライトの光が目の前を通過してくもんだから、ステージを正視できず(笑)。というのが強烈に記憶に残っています。あとは、その「Came Back Haunted」、やはりPOPだなあと思いました。新作の中ではダントツだと思いますが、ライヴだとさらによく分かります。サビが一緒に歌えますもの。新作の中では会場がもっとも盛り上がったのはこの「Came Back Haunted」でした。
やっぱりNIN、というかトレントは静と動の使い分けが巧みだなあと感じたのが、次の「Reptile」。冒頭の機械の駆動音のような効果音から、一気に振り下ろされるディストーションギター、あわせて放射される光線。このハンマーでガツンと殴られたような(いや殴られたことないけど)、すさまじい衝撃たるや。また曲中にある、奇妙な、バイオレンスとは離れた、黄昏た瞬間が、吸引力を発揮する。暴力の果ての虚無のような、心地よい空洞。その虚脱感のようなものは、セクシャルでもあり、僕が昔のNINに感じているエロさは、そのあたりに起因するのだと思う。そんな時化(しけ)と凪(なぎ)をひとつの曲の中で絶妙にコントロールすることで生み出されるカタルシスというやつが、NINのひとつの魅力であることを、この「Reptile」で改めて実感しました。
「Reptile」に続いた「Beside You In Time」はちょっと唐突感があったんだけど、意外にフロアは好意的に受け入れていて、逆に僕が疎外感を感じてしまった(笑)。でもこの曲はやはりあのすばらしい視覚エフェクトと共に見てみたいなあ! というか見たかったなあ! あのトレントがマイクスタンド振りかざすとスクリーンに映った映像が粉々に砕けていくやつ…。あれのイメージが強すぎます。そしてこのあとが通称「コピオバ」こと「Copy Of A」! やっぱりNINに求められているのは、こういったダンサブルなリズムに、キャッチ―なメロディを合わせたウタモノなのかなあって思います。フロアも確実にノリのよい曲を求めてますよね(当たり前といえば当たり前ですが)。そういった欲求を知ってか知らずか、POP度高めのセットリストで来てくれましたけれど、個人的にはもっと静のパートをガッツリぶちこんできても良かったと思います。というか僕が見たかっただけですが。「La Mer」とか「Eraser」とか、「In This Twlight」、「Right Where It Belongs」などなど。でもああいうのはやっぱりスクリーン使って演りたいのかなあ。
静のパート云々というのはですね、終盤ちょっと駆け足過ぎる印象があったんです。新作からエレクトロなファンク「All Time Low」をやって(ラストにちょろっと「Closer」を絡めてきてドキリとしました)、ここから最後までがもう連打連打ですよ。「Gave Up」, 「The Hand That Feeds」, 「Only」, 「Wish」, 「Head Like A Hole」, 「Hurt」っていう。そりゃあもう盛り上がりはすごくて、「Only」で一回落ち着く感じではあったけれど、「The Hand That Feeds」や「Head Like A Hole」はこの日のマックスだったんじゃないですかね。お決まりのハンドクラップが会場中で行われたことはもちろん、タオルやペットボトルが宙を飛んで行ったり、フロアから突き上げられた拳の数も気持ち悪いくらいで、ちょっと後ろからみていて圧巻でした。でもですね、やっぱりちょっと性急すぎる感じがあって、ここまでキチキチに詰め込まなくても、間に何か毛色の違うトラック挟んでもよいんじゃないかなってチラッと思ったのが事実。「Gave Up」と「Wish」はどっちかでよかったと思うし、もっというなら、「The Hand That Feeds」~「Head Like A Hole」~「Hurt」っていう、この辺の定型化している流れを崩してほしかった。まあ別の日には変わるのかもしれないけれど。
あと「Hurt」でのフロア側のリアクション、あの曲中にみんなでライターを掲げるというやつは、今回は実現されなかった模様。試みた人はいるみたいですが、会場側がダメ出しをしていたようですね。前回のコーストでは見事実現していたんですが。でもやっぱり危険ですからね。仕方ないです。
ということで、あっさりタイトに終了。猛ダッシュで目の前を駆け抜けていったような。でも僕は満腹です。正直ちょっと受け止めきれていないくらいです。アハハ。瞬間的にして濃厚という。
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フジロックを見た人は、なんとなく物足りなさそうな意見が目立ちますが、僕は今回のライヴ、すごい良かったと思います。曲数とか曲目とか言い出したらキリがないけれど、パフォーマンス自体は素晴らしかったです。音も良かったし、声もしっかり出てたし。メンバーそれぞれが曲によって楽器をもちかえて演奏するマルチプレイヤーっぷりが目立ちましたね。テクニック的な部分はよく分からないけれど、あの臨機応変ぶりで、ここまでのパフォーマンスを見せるバンドもなかなかいないような気がします。
あとはトレントの動物的な動きも今回は印象に残りました。頭の中にある曲のイメージ、その動き(あるいは流れというか)に合わせて体を動かしているんでしょうけれど、始終動きっぱなし。前にNINのライヴ動画を見た知人が「あんなに動く人だと思わなかったよ」って言ってましたが、今回もまさに「動く人」でした。もう決して若くないのに、あれだけ動きつつ、渾身のパフォーマンスを見せるトレントの体力は相当なもんでしょう。エンターテイナーって言っちゃうとちょっと違うかもだけど、でも曲にしろパフォーマンスにしろ、刺激的なことをやりつつも、根っこに強い大衆性というか普遍性があるんだと思います。だからここまで大きなバンドになって、成功しているんじゃないかと思います。
ああ、なんかもっと書けることあった気がするんだけど。昔はもっと偏執的なレポートを書いてた気がするんですが、すっかりタッチが変わってしまいました。単純に興味の問題かもしれません。きっとそうでしょう。あ、グッズは買いませんでした。だって黒と白?のいかにもNINってやつしかないんだもんなあ。「Fragile」のときのTシャツとかないのかなあ。着倒してヨレヨレになったまま段ボールの中で眠ってますん。夏はこっそり寝るとき着てます。
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さて、以上はまだ一日目。今回は二日目も行くんです。そちらはまた後日。
オフィシャルのツイッタ―に上がったこの日の写真を以下に。なんと日本語で「素晴らしいショウだった!ありがとう!」の言葉もあります。こちらこそありがとう!
あ、ライターの有島博志さんのツイッタ―にあがったトレントの写真がオッサン過ぎて逆に微笑ましいデス(笑)。なんかかわいい。
おしまい。
この日のセットリストはこちら!
Archive for 2月 2014
NIN JAPAN TOUR 2014 - 2.25
2014/02/26
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