『キリンの国』をプレイしていました。

ここ数日、スタジオ・おま~じゅさん制作によるフリーゲーム『キリンの国』をプレイしていました。

ダウンロードしてからちょっと時間あいてしまったんですが、一息ついたタイミングで何の気なしにプレイしてみたら、一気に引き込まれて、そこからズッポリと、最後まで。

すごく、すごく面白かったです。
なので興奮して何やらしたためている次第。

***

この先はストーリーに触れているので、先にプレイしてドキドキしたい方は読まないでくださいね。

さて、キリンの国っていっても、何?動物の国?って感じかもしれませんから、ちょっと紹介文を公式サイトから引用させていただきます―

“梅雨の頃、鞍馬特区からの手紙が届く。
それは鞍馬のお姫さまからの招待状。
梅雨明けと共におとずれた夏休み。
キリンと圭介は、天狗の国、鞍馬への冒険に旅立つ。
少年たちの友情と、人生の節目を描いた、長編ビルドゥングスロマン。”


ってこれだけでも分からないかもしれません。

舞台は一応日本国ですが、独自の設定が設けられています。
それは天狗という存在で。
天狗には天狗たちの決まりごとがありますし、人間には当然人間たちの決まりごとがあります。
そして天狗と人間たちの関わり合いもあります。
また天狗たちの間でも勢力争い、権力争いもあります。

天狗は人間たちと共に暮らしてはおらず、商業的な部分で関わりはあるようですが、基本的には天狗たちで独自に生活を営んでいます。
そして詳しくは描かれていないものの、人間と天狗は決して仲の良い関係ではなくて。

そんな世界でのお話。

わけあって天狗の国から追放されていたキリン(という名前の少年です)は、人間の国で暮らしている中学生(この作品に出てくる天狗は、いわゆる真っ赤な顔に長い鼻をもった典型的な容姿ではなくて、人間と何ら変わらない見た目なのです)。彼は幼き日に、天狗の国、鞍馬のお姫さまであるヒマワリと約束を交わしているのですが、彼女からある日手紙が届くのです。

会いたいと。

人間の世界でのたった一人の友人である圭介(けいすけ)を強引に誘って、キリンは鞍馬の国へ旅立つ決意をします―

というのが導入部なんですが、てっきりガチガチのファンタジーだと思っていた僕は、この時点でかなり引き込まれていました。冒頭部分が完全に違う世界のお話(鞍馬の国の天狗たちが政治的な話をしている)だったので、小難しい路線かと思っていたのですが、本編がはじまるや、主人公はどうやら中学生二人組だと分かり、なんだか一気に親近感湧いちゃいました(だって昔は自分も中学生だったし)。

この本編以降で如実に感じることなんですが、文章がよいです。ダウンロードサイトで同じようなことを書いている方もいましたが、僕も同じ感想です。技巧派とか凝ってるとか、そういうんじゃなくて、逆です。非常に読みやすい。要は文章もリズムだと思うので、KAZUKIさんの文章のリズムが僕に合っているということかもしれないです。もちろんインターフェースも関係あるでしょう。エンターキーやマウスクリックで文章を読み進めるわけですが(言い忘れた!今作はノベルゲームです)、このバランスもすごくよいです。クリックが負担になるほど文章が細切れにされていることもなく、逆に一気に表示され過ぎて読んでいる間にリズムもへったくれもなくなって興ざめ、みたいなこともないんです(いわゆるノベルゲームでは、これすごく重要だと思います)。

そう、文章は読みやすいんですが、ときおりハッとさせられる表現が出てきて、しかもそれが浮いてなくて、作品の世界にマッチしてて、読んでて何度もうなりました(わざわざ引用はしません)。すごくスキな文章です。

世界観もキッチリ作りこまれていて、天狗の国の文化や政治、経済、歴史的背景も細かく設定が設けられていて、物語に厚みを与えています。特に食べ物についての描写は多く出てきますが、どれもすんげえ美味そうで、あれらは実際にあるものなんですかね? どうなんだろ。腹減りながらプレイしていると、よだれが出てきそうです。

そういう、強固な世界観と、文章のよさと、あとはイラストもよいんですよ。立ち絵枚数1000枚以上、立ち絵用意キャラクター数25人という、豪華なつくり。いわゆる萌えな路線は回避されていて、シンプルなんだけどきちんとキャラクターが描き分けられていて、しかも服装のバリエーションや、表情や立ち居振る舞いの動きも豊かで、これも物語にアクセント、躍動感を与えています。

強固な世界観、文章のよさ、イラストのよさ、と三拍子来たところで、一番大事なのはストーリーですね。言うまでもなくこれもよい! 会いたいという一心でヒマワリの元へ向かう二人ですが、とある事情で簡単には会えないわけです。純粋な気持ちで突っ走るキリンが「子供」であるとすれば、それを拒む事情というやつは、いわば「大人」でしょうか。そんな大人と子供という対比的な構造が、この物語の大筋にはある気がします。その狭間にいるのが、キリンと行動を共にする圭介で。彼はキリンのストッパーとして機能(つまり子供をたしなめる大人のような)しますが、ところどころで、自分の中の純粋な衝動にも気づいて、それと格闘します。そしてそれぞれが自分を知り、成長していく。

でも単純に純粋な気持ちが認められるべきで、それを拒むやつらがおかしいとか悪いとかいう展開にはなっていないところがまた、よいです。特に天狗側の雲龍のポジションとか絶妙ですね。キリンたちを助けるわけでもないんだけど、でも身内でも曲がったことをする奴は容赦なく罰するっていう。めちゃカッコいい。

やっぱりですね、葛藤のある物語ってよいですよね。なぜなら人生って葛藤の連続で、登場人物の葛藤には少なからず感情移入できるわけで、その葛藤の解決に向けて登場人物たちが強い気持ちを持ったときには、本当に興奮しますし、涙だって流れます。そういう強い思いっていうんですか、それが充満していていたるところで胸を打たれます。クライマックスはやはり圭介がキリンを助けに向かうシーンでしょう。なんだよこのハートの強さ(しかも文章はくどくない。絶妙)。もう、ボロボロしっぱなしですよ・・・。

これは演出のうまさにも通じるかもしれないんですが、文章と音楽とイラストの使い方がとにかく巧みで、ここぞというところで必ずキメてくれます。僕は何度もポロポロしたり、鳥肌立ったりしてました。個人的にマックスだった2か所を上げさせてもらうと、序盤でキリンが教室の窓から雲を眺め、そこに広がる「夏」に気持ちを抑えきれず、窓から抜け出していくシーン。すげえいい。忘れていたことを思い出させるような。あとは、中盤、ヒマワリの近くまで行くも会うことはかなわず、遠くから顔を一目見るだけという、切ないシーン。5年ぶりにヒマワリの顔を見たときのキリンのあの顔、いやそこにある感覚が、画面中からバチーンと伝わってきて、鼻の奥がジンジンしました。他にもたくさんあるんですが、あんまり書くとインパクト損なってもいけないんでこの辺で。あと初めはわりとライトなノリですが、終盤からは一気に「死」の影がちらつくシリアスな展開になってきます。気づいたら「え、まさか?」ってドキドキしてました。

とにかくこのあらゆる要素がフィックスされた『キリンの国』。傑作だと思います。気になる方は是非プレイしちゃってください!! 全編からにじみ出る夏休み感もノスタルジアを呼びます。解放感にあふれた夏の終わりはさびしくて―旅の終わりは別れの予感で、そんな別れがいくつも用意されていて、これもとても、なんというか、胸に迫るんです。まさにセンチメンタル・ジャーニー。

ちなみにスタジオ・おま~じゅさんは同じ世界を舞台にした『みすずの国』も制作しています(こちらもフリーです)。時系列的にはたぶん『キリンの国』よりもあとになるのかな? こちらはボリューム的には『キリンの国』よりも少なくなりますが、よい作品です(ヒマワリも出てきますし、『キリンの国』で聞いた名前もチラホラと)。合わせてプレイするとよりいっそう楽しいと思います。含みのある表現があったり、詳細が意図的に回避されているような部分もあるので、他にも同じ世界の作品が予定されているのでしょうか? 期待しちゃいます。

あ、一番好きなキャラクターはホオズキです。ほっち。ホチ助。和みます。でもあの子に泣かされるとはな・・・。

※作者さんのブログを読むと、シナリオを書く上でのプライオリティの一位に「リズム」とあって、ああやっぱりだからこそこの気持ちよさなんだなと、納得しました。自分の感じ方が間違ってなかったこともうれしい。

Leave a Reply