MEISHI SMILE - ...BELONG


MEISHI SMILE(メイシスマイル)の二枚目のアルバムにして初の日本盤『...ビロング』を聴いています。

おそらく彼の作品について触れる時には、そこにおいて表されているものに言及するのが大事、というか、僕はそうしたいし、せっかく彼は自分の作品についてのテキストをFacebookやTumblrに書いてくれているのに、僕の英語力のなさでいかんせんそれが読解できないので、どうしても作品の内面について作り手側の思いを踏まえた上で何かしら書いてみる、ということができないでいるのです。これがもどかしい。

ということで、聴いてみて表面的な部分から感じたことを書いていくしかないのです。

さて、現在二周目を聴きながらですが―

否定的な意味ではなくてちょっとダークなサウンドになった印象です。あとはサウンドのバリエーション(音色にしろスタイルにしろ)が増えていることもあるんでしょう、若干まとまりに欠ける印象もあります。前作『LUST』では別々のトラックに同じフレーズを忍ばせることで、見事に一本筋を通していたのですが(それによってハートブレイクのサイクルを表現するという意図もあったのでしょう)、今作ではそういったサウンド面での筋といったものは聴き取れませんでした。

だからここにこれからの彼のサウンドがあるのかっていうと、ちょっとどうなんだろうって思います。作品の中でも方向性のようなものが嗅ぎ取れませんでした。音による表現の多様性が獲得されて、それによって陰(ダーク)から陽(ライト)までの幅は広がっていると思うのですが、その中で「ああこれがメイシスマイルなんだな」ってのは見えません。

たぶん僕の中で『LUST』が大きすぎるってのもあるんでしょう、最もメイシスマイルらしさを感じたのが「Us」なのです。これは初出はOrchid Tapesからの『ANGELTOWN』(COMPILATION CASSETTE)かと記憶してますし、『...ビロング』収録に際して改めて手が加えられ、かなりアンビエントなタッチになっているのですが、このシンプルなサウンドの中に込められたセンチメンタルとサッドネス、それらを包むノスタルジア、僕の中ではこれがメイシスマイル節なのです。だったのです。

また、歌が前面に出てきたこともあるんでしょう(ボーカルに対するエフェクトが弱くなってきたこともあるし、単純にトラックの真ん中に位置していることもある)、明るいにしろ暗いにしろ、感情性が深くなったように感じます。直接的になったと言いますか。先行で公開された「Pastel」なんてちょっとビックリしましたもん。スローでコズミックな冷たいサウンドスケープ、電子のざらつきを残しながらも、明らかに愁いを持ったボーカル。そこにある一抹の暗さは、少なくとも僕は、これまでの彼のサウンドには感じたことがなかった。

日本盤ではボーナストラックを抜かせばラストに位置する「ビロング」もやはり直接性を感じさせます。シューゲイズ、ノイズ、ハードコアを詰め込んだ荒々しいトラックで、Yuko Imada名義で披露していたノイズな側面と、メイシスマイルにおけるポップネスが、絶妙なバランスでためらいなく融合しています。またライブにおける彼のアグレッシブなプレイを見ると、これこそが真骨頂と見る向きもあるかもしれません。メイシスマイル名義の音源ではここまで直接的にハードコアなサウンドを披露したことはないように思いますので(あったらスイマセン)、やはりこれも表現の変化と捉えることも出来るかと思います。あとは随所で聴けるブレイクビートも、『LUST』の頃にはなかったものです。やはりサウンドはより深く、複雑化しています。

じゃあ全部変わってしまったのかっていうと、そんなことはなくて、僕がメイシスマイルの作品において重要な要素だと思っている二面性というヤツが、ここでも大事に扱われています―

Lyrically, the album explores subjects of guilt ("Star"), romantic disconnection experienced through the digital divide ("Today, Again"), impressionable youth and suicide ("Blank Ocean"), gender identity and depression ("Dysphoria"), the coping of death ("Pastel"), abortion ("Fetus") and societal violence ("Belong").

―と、歌詞は決して明るいテーマではありませんが(「Pastel」は祖父の死についての歌であることが明言されています)、それでもサウンド面では明と暗をふり幅大きく行き来しているのです。『LUST』にあった疾走感・高揚感と喪失感の同居といった二面性とは違いますが、明と暗を「ポップ」でまとめあげています。その感覚は進化・深化といってもよいでしょう。

僕はどうしても彼をネットレーベルとかインターネットの側として言及したくなってしまうのですが、もはやそういう存在ではないのかもしれませんね。世間一般ではネットレーベルの知名度なんておそろしく低いでしょうし、それがこのご時世にお茶の間レベルに浸透するなんてこともあり得ないでしょうから、インターネット発とは言えど、彼をそこに縛り付けるような見方をするのはお門違いなんだろうなと、この日本デビュー盤を眺めながら、思いました。それは何だかちょっと僕から離れていくようで、さびしい感覚も伴いつつ。




まだ水面にようやく顔が出たという感じなのかもしれませんが、さらなく飛躍を願っております。また日本にも来てください。今回はCDというフィジカルな形で日本でも手に入りやすくなってますので、ちょっと興味のある方は購入してはいかがでしょうか! Amazonからも買えますよ。

たぶんまだまだスゴイの作ってくると思うんで、期待してます。

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ちなみに『LUST』以降彼がリリースしたトラックはほぼ収められていますが、『Boring Ecstasy: The Bedroom Pop of Orchid Tapes』収録の「Sincerity」は入っていないようです。歌のないアンビエントなトラックなので、「Innocence」の代わりに「Sincerity」でも良かったのではないかなどと思いますが、どうなんでしょうか。『LUST』以前だと「Seoul」もZOOM LENSのコンピレーション、『Untitled』でしか聴けないです(そういえば一際ポップな「Pond」も『Zoom Lens』にしか入っていない)。昔はちょいちょい小ネタといいますか、「Honey」の8bit mixだとか、他のトラックでもヴァージョン違いとか、Tumblrに上げたりしてたんですが(僕もめざとくチェックしてました)、最近はないようです。

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Meishi Smile- Pastel


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