syrup16g tour 2015 「Kranke」 2015/07/08@NHKホール


うわあああああああ。

患者Tシャツ買ったよ。着てる。書いてる。

9日のライブも行くのだけれど、これを着ていく勇気がない。一人で行くもんで。上になんか羽織っていって会場で脱ぐって手もあるけど、僕の中ではそれは邪道。なのです。

しかしライブTシャツって久しぶりに買った。この袖を通した時の不思議な一体感っていうんですか、「ああオレこのバンドのファンだ」っていう愛の再確認っていうか、「このライブ行ったんだよな」って感慨もあるし、いたるところのファンとこれを着ることによって見えない糸でつながっているような、奇妙なうれしさもあります。あとフェイスタオルも買ったけど(これは家で使う)、ステッカーも買ったけど(PCに貼りそう)。今回は珍しくバンドにお金を落とす(いやらしい言い方)僕であります。

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ここ近年(解散前後も含めて)で、最も五十嵐氏のトークが聞けた公演ではないでしょうか。ご存知のようにsyrup16gのライブはMCがほぼありません。ないときはホントにない。「ありがとうございます」、「ありがとうございました」くらいしかないときもある。まあライブに何求めてんだよって話だけれど、でも好きなバンドに直に接するからには、普段は聞けない生の声(すなわちそこだけの、行った人だけが聞ける肉声)を求めるのもファンの心理というものです。今日はそれが非常に満たされました。

セットリストはこちら

ホントに序盤はやっぱり硬い印象があって(特に「冷たい掌」)、それは前回のライブの時も一緒だったんだけれど、置きにいってる感じがすごくあって、ハズさないように、ハズれないように、堅実に、そしてちょっと探ってる感じっていうか。歌も演奏も。それが硬さにつながっていたんだと思います。「To be honor」をこんなに頭、3曲目に持ってくるとは思わなくて、本編ラストとかその辺りかと思っていたので、意外でした。でも予想通りというか、この曲はライブ映えします。あの広がりのある空間と、その中でスコーンと抜けていく五十嵐さんの声。改めていい曲だと思いますし、今後ライブの定番曲になってもおかしくないです。

「HELPLESS」はアレンジが違うっていうか、鋭いギターを前面に出してきたので、初め何の曲か分からなかった。分からなかったし、頭のギターを五十嵐さんはミスったようだった。顔の前に手を出して、ドラムの中畑さんに詫びていた。「明日を落としても」や「吐く血」においても歌詞のトビが見られ(笑)、往年のトチりっぷりが頭をよぎり、懐かしく、ホッコリした気持ちになってしまいました。

「My Song」や「明日を落としても」になると、やっぱりもう聴かせ方が違うと言いますか、冒頭の置きにいってる感じなど微塵もなく、ホントにひとつの塊としての曲がそこにあって、もちろんドラムとベースとギターと声によって成り立ってるんだけど、すべてが1個にまとまってる感がすごくて、特に「明日を落としても」はやっぱり破壊力がすごくて、何回も聴いているのにいっこうにその破壊力は薄れなくて、僕は目がウルウルしてしまいました(歌詞をトばしたというよりは、ちょっと入りを間違ったような箇所がありましたが、強引に進みました。僕は潤んだ目でちょっと笑ったもんです)。

本編のクライマックスは何回かありましたが、個人的には間違いなく、8曲目の「正常」がピーク。2回目の日比谷でやったときから、この曲のライブでのヤバさを意識しはじめましたが、この日もヤバい。鳥肌立ちました。かつてのsyrupの真骨頂と思われる、澱んだ空気と、サイケデリア、仄かな甘さが入り混じり。そして静と動の対比によるカタルシス。中畑さんの叫びとドラミングに呼応するように、どんどん曲の熱量が上がっていく。五十嵐さんの裏声もさく裂。そして底の方で曲を牽引し続けるキタダさんのストイックなベース。すごく、すんごーく好きです。特に歌が終わってからがすごくヤバい。もっと長尺で聴いてたいくらいです。

このあとかなあ(違うかもしれません。記憶曖昧)、五十嵐さん喋る!

「こんばんは!」
て威勢よく。「帰ってきましたよ!」って、親戚の兄ちゃんみたいな挨拶をする。

場内を飛び交う「おかえり!」の黄色い声と野太い声。

「ぜんぜん緊張してるんだけど」ってサラリと正直にいう五十嵐氏。

場内温かい笑い。

「今日2日目!じゃなくて、1日目だけど」と続ける五十嵐氏。

「ツーデイズなんてできると思ってなくてさぁ。やらせる方もどうかと思うけど」って笑う。

まさかの批判(笑)。

続けて何か言ってたけど、歓声で聞き取れません。五十嵐さん喋るとみんなうれしいんだよね。内容的には「今日で全部出し切る」的なことを言ったんだと思います。

「明日のために喉大事にしようとか、そういうのやってきてないし、できないし」

「だから気分的にはね、今日が最終日、千秋楽ですよ。ハートだけはね!」と薄い胸を叩く。場内大歓声!

「Everything is wonderful」の浮遊感とサイケデリア(ギャリギャリしたノイズギターかっこいい)もよかったんですが、「吐く血」のアッパーな調子が印象的でした。確かに曲調はもともとノりやすいですけども、イントロで「フゥーッ!!」とか五十嵐さん言ってくるから、「この歌詞で『フゥーッ!!』ってノりすごくね?」って思って、一人でニヤニヤしてました。

「Share the light」は見るたびに「演奏難しそうだなあ」って思ってしまって、どうもノりきれません。いやカッコいいんですけどね、サウンド的には「ニセモノ」に匹敵するくらいヘビーな切れ味持ってると思いますし、演奏は実際切れてたんですが、サビでもうちょっと爆発力出るともう完璧です。

このあとは本編ラストの「Thank you」まで怒涛の名曲連打。「天才」(「Share the light」からの「天才」に違和感ないのが驚いた)、「真空」(入りがカッコいい!最後に中畑さんが『ワンワン!!』って叫ぶの何←これは「落堕」か?)、「パープルムカデ」(左足上がらず。序盤に一瞬浮いた)、「神のカルマ」ときたもんです。セットリストを見て分かるように、今回のライブは万遍なくすべての作品から選曲されてますが、どちらかというと、攻めのスタイルです。それは完全にバンドのモードを暗示しているし、実際本編ラストの前に五十嵐さんが決定的な言葉を口にします―

「まあ」とちょっと腰をかがめた感じで笑いながら―

「おとなしいけどね! 大丈夫ですか」って。

ああ! やっぱり気にしてる! おとなしいって言われた! 裏を返せばもっと盛り上がってくれよってことでしょ!? 俺ら攻めてんだからついてこいよって! 場内笑いが起きる辺り、みんな気づいてんだよね!

「いつもだいたい楽しそうだけどねー、うんうん」って誰に向かって言ってるのか分からない口ぶりで続ける五十嵐氏。

すかさず場内では「楽しいよ!」、「楽しい!」って黄色い声と野太い声が。

「次の曲で最後なんだけど―」って言われかけるや、客席みんなで慌てて、「えー!!」って一際ユニゾンで盛り上げます(笑)。

「まあ感謝の曲なんで―」と言って五十嵐氏、フワッとした裏声で華麗にコーラスを始める。このアレンジにくいわー、かっこいいわー。メロディで「Thank you」って分かったけど、何かすっかりライブバージョンに生まれ変わってる気がしますね(歌詞も一部「諦めない僕に Thank you を」を「諦めない君に Thank you を」に変えてきた)。カッコいい。僕は「旅立ちの歌」よりこっちが好き。やたらと疾走感あるし。当然好き嫌いはあるでしょうが、考えようによっては「翌日」と同じようなポジショニングなのかなあって、聴きながら思いました。

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立ったままアンコールを願うこと数分、暗がりの中でステージ天井から何かが下りてくるのが見えました。

ああ!

他公演で「レンコンが降ってきた」という分けのわからない情報を某所で目にしていたのですが、その意味が分かりました。手術台の照明を模した照明道具(分かりにくい表現でスイマセン)が天井から降りてきていたのですね!(詳しくは「手術台 照明」で画像検索してネ!) 患者を演出してるわけか!、あーいいじゃん、面白い演出じゃないですか!って一人感心してました。しかもちゃんと照明つくし、ライトの色も場面に合わせて変わるし、どうやって作ってるんでしょうかアレは。もともとああいうのがあるんでしょうか。分からんけれど、面白い。手術台まであれば…ってそれはやりすぎか。そこに寝てギター弾くとか? いや、やりすぎだ(笑)。

いや話が逸れました。「vampire's store」はやっぱりライブ向きですね。やっぱりまだこなれてないこともあるんでしょうか、音源をなぞったような感じでしたが、ライブ独自の熱量が吹き込まれれば、これは定番曲になってもおかしくない(「Sonic Disorder」とまではいかないか)。

東京のお客さんは(僕も含め)スロースターターなんでしょうか、アンコール2曲目の「落堕」になってようやく拳を振り上げはじめました。「寝不足だっていってんの!」の合唱もさく裂。ここにきて遅すぎるともいえるヒートアップでついにバンドと熱量がかみ合った気がします。遅い!! 他公演の情報をほとんど見てなかった僕は、ここで終わりかな?とか個人的には思ったんですが(もちろんまだやって欲しいという気持ちがありながら)、客電がつく気配もないし、これは期待していいのか!?と、再びのアンコールを願う。

間髪入れずにっていうと言い過ぎだけど、全然またせずに再度登場した3人。

ドラムセットに上った中畑さんが、五十嵐さんを指さし、ギターを弾くポーズをとり、「こいつが今からイカすギター弾くからよぉ」的なナイスな笑みを見せる。それを受けて、ぜんぜん曲に入るそぶりがあったわけではないのだけれど、置いてきぼりをくらいそうになった五十嵐さんが焦ったようにいう、「ちょっと待って!!」って割とでかい声で(笑)。

みんながハッと見たら、シールドがこんがらがってて、絡みをほどくべく、ギターを中空でグルングルンと回す五十嵐氏がそこに(笑)。その様子、まるで服の裏返しを直すべく格闘する子供のようで。数秒、それを見守るわれわれ。まったく今回はなんでそんなにお茶目なんだ!

と、軽快に話し始める五十嵐氏(ホントに楽しそうだなあ…)。

「こんなTシャツ買ってくれた人、ありがとね」って。患者Tシャツ。やっぱ自覚あるんだ、ヘンなデザインだって(笑)。

「うちに帰ってパジャマにしてたらお母さん驚いちゃうよね。ついに来たか!っつって」と続ける。

「分かりやすいナ」って中畑氏のつっこみさく裂。

「ねえ、ほんと」と話題を変えつつ五十嵐さん、「さっきの『落堕』って曲もさあ、チューニング間違えて演奏しちゃうし…」と唐突な暴露(笑)。中畑さんも笑う!

「5年6年経つとこうなっちゃうから、ねえ、これからライブもちょっとずつ
(と指の間に隙間を作り)やってってね」(場内大歓声)

「みなさまに恥ずかしくない!syrup16gを!お見せできるように、頑張っていきます!」と、西川きよし師匠の「小さなことからコツコツと!」ばりの握り拳を作りながら、聞いたことないような宣言を! らしくないけどすげー嬉しい! 続くんだよね! そうだよね! ライブもいっぱいやってくれるんだよね!

こんな明るい調子いつ以来だよ?って思ったけど、思い出せない(笑)。924(daimasの日記スペシャル)とかさ、あのくらいまで遡らないとないんでないかな(僕はあのときの「翌日」がすごくスキなんです)。

「日々の積み重ね、ですよ」って言った五十嵐氏、そこから「生活」のイントロへつなげるニクい演出。こういうのアドリブでやってるんかな。寝る前とかに考えてるのかな(笑)。普段口数少なそうなのに、ここぞというときに、バチッとした言葉を口にするのは、どこか「北斗の拳」のケンシロウにも通じる気がして(笑)、まあ何が言いたいかっていうと、僕はそういう人が好きっていうことです(ケンシロウはちょっと行き過ぎてるけどな)。

もうこの辺の「生活」や、ラストの「リアル」に関しては、単純に楽しんじゃって何がどうとか一切頭に上ってきませんでした。

去り際に客席を拝みながら、五十嵐氏が手をメガホンにして、会場に向かって何か口にしたようですが、まったく聞き取れず。なんて言ってたんでしょうか。

+ + +

点数付けるのはおこがましいので、来場前の期待を超えたか否かで表現すると、見事に超えてきました。すばらしかったデス。上手く言えないんだけれど、syrupについては「来るか来ないか分からない『その時』を、信じて待ってる」っていうイメージがあって、一度でもsyrupに(よくも悪くも)打ちのめされたことがある人は、また「それ」を求めて彼らを聴いたり観に行ったりすると思うんです。でも必ずしも「それ」はやってこない。かと思えばこれまでを上回る「それ」がやってくるときもある。だから、僕らは「それ」がくる「そのとき」を信じて待ってるんです。だって確かにそれを与えてくれたんですから、もう一度、ってそう思うのはおかしいことじゃない。音源に関しては一度聴いちゃうとどうしても2度目は2度目になってしまうから、だから僕らは1回こっきりの水ものであるライブに足しげく通うのです。そこにしかないものを求めて。今回のライブでかくして「それ」は与えられました(個人的には「正常」~「Everything is wonderful」~「吐く血」がベスト)。だから僕は、また行くでしょう。「それ」を求めて。(まあsyrupに限らずライブってのはそういうもんだとは思いますが)

今あたりまえにsyrup16gが自分の生活に存在し始めてますが、考えてみれば、4年も5年も不在だったわけで、でもそんな気がしないところが非常に不思議なのです。思うに不在期間中も普通に聴いていたからではないかと踏んでいるのですが、果たしてどうなんでしょうか。それとも、もうキッチリ終わりを認めてたからなのかなあ。

バンドの調子というか雰囲気がホントによさそうで、今後のこととか何にも分かりませんが、期待しちゃうよ?いいよね?って問いかけたくなるような、素敵なライブでした。そういう意味では、いよいよ、本当に、復活の狼煙が上がったのかもしれません。新譜が出たばかりですが、新しい曲が聴きたくてたまりません。どんなんが出てくるのか。

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NHKホール初めての1階席でしたが、わりと近くで見た五十嵐氏はやっぱり細くて白くて疲れてて、頼りなさげでした(初めて見たときから変わってない)。煽り気味の中畑さんに対してキタダさんはいつにも増してクールな印象でした(さすがに紹介されたときは手挙げてましたけどね。そんくらい。あとは「落堕」でのドラム間近でのブリブリベース)。中畑さんは演奏もそうだけど、叫びとコーラスがすごいなあ(特に「真空」)。五十嵐さんを食いかねない要(かなめ)っぷりでした。

五十嵐さんのサラサラとしたストレートヘアは、「俺もうひねくれないよ」って意志の表れなんじゃないかって、今回のライブを見ながら、フト思いました。おしまい。




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