好きなようにやるだけです(2013.01.15)



いきなりフリーゲームの紹介をしたりする、よく分からないブログになってきましたが、こっちのブログはこういうことをやるのが趣旨だったりするので、いいんです。よく分からないが、いいんです。

というわけで、ここ数日は半端マニアソフトさんの2003年作「冬は幻の鏡」をプレイしていた(そして原因不明の体調不良に苦しんだりも)。もともとは販売用の作品だったのだけれど、2010年からフリーで公開されている。

ストーリー(公式サイトより引用)はこうだ―

「真っ白な雪に包まれた世界にもし鏡が落ちていたとして、さわらずに、自分を写さずに、その鏡を見つけることができる?もし、できるならその方法をおしえて。たしかめたいことがあるの。

北海道の東側にある野別市の野別市立南陽高校では、四年前からある噂が流れていた。それは、四階の女子トイレに交通事故で死んだ留学生の幽霊が出るというものだった。留学生の幽霊、というのが珍しいと言えば珍しいが、どこの学校にもあるような噂の一つでしかない、とみんなが思っていた。

北海道の長い冬がやっと終わりに近づいた三月の終わり。冬の最後のあがきのように、朝から大粒の雪がゆっくりと降っていた日の放課後、御堂道明は廃屋を隠れ家にしている登校拒否児の長池小月の頭を撫でていた。和泉和歌奈は友人の立花鈴夫と一緒に幽霊を探しに夜の校舎に忍びこむ準備をしていた。田之上小太郎は風俗の割引チケットを持って風俗店「フェランス革命」の前に立っていた。それぞれが、これから出会うことを知らずに。

今は静かに眠っている虚ろな存在の浸食に、彼らはまだ気づいていない。ゆっくりと回転しながら沈んでいく、誰かの夢をまだ知らない。七人の主人公たちが織りなす、冬の終わりの、七つで一つの物語。」


スタイルはサウンドノベル(忘れちゃいけない、今作は18禁です)。プレーヤーは、とある冬の1週間(+α)を、複数の登場人物たちの視点で追っていく。物語の軸になっているのは「留学生の幽霊の噂」。噂が本当になり、事件が起きたとき、それぞれがそれぞれに、事件に立ち向かっていく。プレーヤーは、複数人の視点で事件を追うことで、はじめてこの事件が何だったのか、全貌をおぼろげにつかむことができる。メインルート3つをクリア後、最終ルートが始まるのだが、全ルートをプレイしないと、少なくとも事件の概要さえつかむことはできないだろう。

ここからはネタバレに踏み込みます。私はこの物語は葛藤の物語だと思っている。事件をきっかけに彼らがその葛藤を乗り越え、成長していく、成長譚だと思っている。登場人物たちは、本当に、どいつもこいつも、葛藤ばかりしている。童貞、愛、友情、欲望(殺人欲求、性衝動)、過去と現在、秘密。みながみな、心に強い何かを抱えていて、それゆえに、人間関係に苦しんでいる。

幽霊、というものへの関わり方も、各自で異なっていて、これが物語に幅を生み出している。登場人物のみながみな、われわれのような、いわゆる一般人―幽霊なんて見えない人―ではないのだ。見えるもの、見えるようになってしまったもの、狩るもの、生み出すもの、そして一般人と、複数の設定があり、この設定が物語に奥行きと複雑さを与えている。

こうして書くと、シリアス全開の物語に思われるかもしれないが、断じてそうではない。特に動けるデブである田之上小太郎のルートは(人を選ぶが)爆笑必至のコメディ、もとい下ネタ要素が満載(冗談抜きで満載だ)で、大いに楽しませてもらった。そもそも彼の所属する放送部では、横綱番付を採用していて、各自が番付をもっている。部長である彼はもちろん横綱で、だから放送部員たちは彼を「綱」、「横綱」と呼ぶのだ。この時点で何か面白いではないか。振り向きざまに女生徒に女性器の名前を叫んだり、語尾に「ティンコ」をつける冗談を伝授したり、彼のルートには数々の名シーンがある。面白さでいえば、放送部が制作した過去作品を見るというシーンがあるのだが、「校内残酷物語」、「人間高校」、「酔い」の3つが視聴可能で、いずれもエクストリームにぶっ飛んでいる。上半身裸で廊下を走り、女生徒の前で倒れながら血糊を口から吹き出し、「ぺ、ペスト…」なんて言っちゃうんだぜ? 面白すぎるだろ。冗談を通り越して芸術の域、には決して行かないし、アバンギャルドというよりも、意味不明。彼のルートだけで、このゲームがコメディとシリアスと変態的要素を内包しているのが分かる。

1週間のうちの6日目に、事件は一応の収束を見る。それぞれがその6日目に、「何か」を乗り越え、「何か」をつかむ。幽霊を狩るものとなった御堂道明は、幽霊である長池小月と生きるため、自らの影と対決し、これに勝利。愚直なまでに熱い田之上小太郎は、みんなニコニコハッピーエンドをあきらめず(道明と口論する場面は猛烈に熱い)に、それゆえに、愛を成就させる(このシーンも泣ける)。唯一、和泉和歌奈のルートだけは、初回プレイ時には謎が残るだろう。友人に重傷を負わせた幽霊を痛めつけようと、立花鈴夫と共に夜の学校に乗り込んだ彼女は、いったんは幽霊世界に取り込まれて、その世界で普通の生活を送り始めてしまう。辛くも脱出した彼女を、鈴夫が笑顔で迎えるのだが…? そう、事件の発端、留学生の幽霊はなぜ発生したのか、そして和歌奈の友人に重傷を負わせたのは誰、いや何なのかが、分からないまま、終わってしまう。それに学校の廊下に現れた仁科ゆうをさんざん切り刻んだのは、誰の仕業なのか?

最終ルートを仁科ゆうの目線でプレイすることで、その謎は解ける。他ルートのプレイ時、彼女のキャラクターはおとなしくて影があるけれど、実はよい娘(友達は一人もいないんだけど、根気強くつきあってみたら実は面白い娘みたいな)というイメージだったのだが、彼女自身のルートをプレイすると、内面は驚くほどひねくれているのが分かる。冷酷非道なマシーンのような。それもそのはず、彼女は人間ではなかったのだ。元人間で、狩るものであったのだが、諸事情で(と一言で片づけるにはあまりにも深い事情で)、幽霊となり、再び幽霊狩りを行っている。そんな彼女も人間だったころの記憶、過去に苛まれており、他の登場人物たちと関わるうちに、「本当の自分」が徐々に大きくなり、やがて隠せなくなってくる。仕事のために友人関係を偽り、それさえ利用しようと考えていた彼女が、最後には、友人を悲しませないために、禁忌を犯す。

事件の中心にいたのは、立花鈴夫だった。彼は幼いころから幽霊を見ることができ、また殺すこともできる、天然のゴーストバスターであり、さらには幽霊を生み出すこともできるという、たぐいまれな能力の持ち主だった。仁科ゆうやその主人である三原のような、裏社会の組織には属しておらず、あくまで一般人として生きてきた。彼もまたそんな能力を持つ自分に強く葛藤し、素直に和歌奈の愛情を受け止めることができないでいた。彼の生み出す幽霊は特殊だ。もはや幽霊ではなく、空間を操る能力といってよいだろう。一度倒れたはずの留学生の幽霊が、何回も同じ場所に出現したのは、鈴夫の力のせいだった。「幽霊が見える力」の特殊性に長い間苦しんできた彼は、「みんなが幽霊を見える」、今回の事件が続けばよいと、願ったのだ。そうすれば自分だけが幽霊を見えるという、疎外感、孤独感に苦しまずに済むから。その結果、留学生の幽霊の出現スポットは、延々と同じ時間を繰りかえす、異常な空間となってしまった。何度も同じ幽霊が現れるのは、空間がリピートしているせいだったのだ。和歌奈の友人が大けがをしたのは、そのリピートの瞬間に起きる、空間の収縮に巻き込まれたせいだったのだ。

仁科ゆうが属する組織においては、鈴夫のような存在(幽霊を見ることができ、また作り出すこともできる存在)は処分するのが決まりだった。一般人にとって非常に危険な存在だからだ。そうでなくとも、和歌奈の復讐を手助けするのなら、その矛先は元凶である鈴夫に向けねばならない。そういった論理だろう、ゆうは深夜の学校で鈴夫と和歌奈と対峙し、鈴夫を殺しにかかる。そして致命傷を与えた矢先、和歌奈に懇願されるのだ、「やめてくれ」と。「どうして?」とゆうは問う。和歌奈はかけがえのない友人だ。ゆうの中で本当の自分が大きくなってきたのも、和歌奈の存在があればこそだろう。「和歌奈ちゃんは復讐したいんでしょ?だからやってあげてるの」とゆうは話すが、和歌奈は「そんなのもう関係ない」と泣きながら、息も絶え絶えな鈴夫を抱きかかえる。その瞬間だ、和歌奈は鈴夫の作りだした空間(幽霊)に飲み込まれて、意識をなくす。その空間は和歌奈を愛する鈴夫が、和歌奈のために用意した世界。どこまでも和歌奈に固執する鈴夫は、ひとつの世界すら作り上げてしまった。現実世界となんら変わりのない、もうひとつの世界で、和歌奈は鈴夫と楽しく生きるのだ。

けれど死が近いせいか、鈴夫自身が、その世界からはじかれて、現実世界に戻ってきてしまう。目の前には仁科ゆうの顔。和歌奈を悲しませたくないという部分で意見が一致した二人は、ある決断をする。その決断だけはここには書きません。気になる人はプレイして確かめてください。私はハッピーエンドじゃないと思うなあ。でもエピローグは好きだな。終わりと始まりの空気がすごいあって。仁科ゆうは、そりゃもうひどい奴だけど、やっぱりなんだかんだ言って誰かのことを思いやってるし、かわいいから許す。

どぎついエログロ描写もね、人を選ぶでしょう。凌辱的なシーンも少なくない。グラフィックはそうキつくもないけれど。でもエロ目線ではプレイしない方がいいでしょう。そういうゲームではない気がする。あと行動につじつまをあわせるためか、論理の飛躍をときどき感じますが、まあそれも些末な事柄ですかね。思春期特有の、バカやってるんだけど、何かに必死になってて、大人の階段上ってる的な、あのきらめきが封じ込められている。多くの人が言っているけれど、田之上小太郎がいいな、やっぱり。一般人てところも馴染みやすさの一因かもしれないけれど、彼の面白さと男らしさ(すげえビビッてても結局みんなのために頑張っちゃう)は、勇気をくれる。何の事件も起こらなくてもいい。小太郎の日常だけを延々と読み物にしてほしいくらいだ。

ぜんぜんこのゲームの魅力を書ききれてないんですが、まあこんなところで。プレイすれば分かるさ。あとグラフィックをコンプリートすると、本編では未登場の放送部先輩方(鉄パイプ先輩、大野先輩、そして偉大なる新田先輩)のお顔を拝むことができます。余裕のある方は是非。

数々の名セリフのある作品ですが、印象的だったのは「この事件を仕切るのは、放送部横綱!田之上小太郎!」ですかね。客観的には全然仕切ってないんですが(笑)。でも私の中では今作を仕切ってる。かっこいい。



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